あなたへ。
あたしは雑然としたバックヤードに行くと、その突き当たりにあるやはり雑然とした事務室へと歩を進める。

二畳ぐらいのそこにあるのは、店長の机と椅子。
従業員用のロッカー。
無造作に折り畳まれ縛られた段ボール。
机の上にあるパソコンのデスクトップ、テレビ。

テレビは店内の防犯カメラが現在進行形で撮影しており、そこにはレジを打つ店長の禿げた後頭部が映っていた。

あたしはロッカーから、自分のバッグを取り出し、休憩に入る前に店で買ったカフェオレを飲みながら携帯を素早く開いた。
メールが一通、届いている。

いつもは誰からも着信もメールも届いてなく、よく行く服屋やドラッグストアから配信されるメルメガしか来ないあたしの携帯に、珍しく誰かがメールをくれた。

それだけで子供の様に気持ちは逸り、早速画面を開いた。
送信者は高校時代からの友達のまどかからだった。

「バイト15時までだったよね?終わったら千晶と三人でお茶しない?」

いきなりの誘い。
大学でコンパやらサークルやらで忙しいだろうまどかと、美容師の専門学校に通う千晶に会うのは久しぶりだ。

「いいよ。待ち合わせどうする?」

そう返信すると、すぐにまたまどかから返事が来た。
まどかはこの店から歩いて10分強にある、地下街の待ち合わせスポットである画面モニター前を指定してきた。

休憩を挟んでからも、しなければならない仕事と急に雨が降ってきたので、傘を求める客に追われ、時間はあっという間に過ぎていった。
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