あなたへ。
そこは、千晶と別れた喫茶店から然程歩いて遠くない、繁華街から一本外れた路地裏にあった。

ライブハウス【MARS】。

あたし達が住んでいるこの地方都市は、なかなかどうしてバンド人口が多い。
だからと言って田舎ゆえにライブハウスが数えるぐらいしかない。
そんなバンド好きな若者の聖地なのがこのマーズだ。なんたってハコが一番大きい。

遅れて来たせいもあって、マーズの入り口前はもうかなりの客が行列を作っていた。
そのほとんどがあたしと同年代の女の子達だ。
中にはセーラー服を着てまだあどけなくお下げを結い、内気そうな中学生もいれば、ドレッドヘアーで丈の短いチューブトップに臍ピアスを見せ付け、脚にぴったりとしたパンツを履いた20代前半の女性(この街でこの類いの人種はかなり希少種である)までいる。

他には道路に座り込んで友人と談笑している女子高生。髪を染め化粧をし、ゲラゲラと手を叩いて笑っているので蓮っ葉な印象を受ける。言葉遣いもうちのパパやママが聞いたら卒倒しそうなくらい汚い。
そしてゴスロリと呼ばれる独特のファッションに身を包んだ、こちらもやはり同世代の女の子。
前回のライブに付き合ってくれた千晶は、彼女達を見て開口一番「これから黒ミサでもすんの?」って言ってたっけ。
こちらも友人達と何か囁き合ってはクスクスと笑っている。
そんな人間模様を、千晶は「ライブよりも来ている観客を観察している方が面白いよ」と評していたのを思い出した。
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