あなたへ。
ホール中を突き破る様な、眩い光と歓声。
観客の目という目が、ステージに突き刺さる。
それほど『彼ら』の登場を皆待ち望んでいたのだ。

中心に立つ男性が軽く手を振り言った。

「こんばんは!フェニックスです。今日は来てくれてありがとう!」

そう、彼らはフェニックスと言い地元出身の4人の大学生や会社員の青年で構成されたアマチュアロックバンドだ。
結成されてからまだ2年しか経っていないが、ファンの共感を呼ぶ歌詞や激しいロックから切ないバラードなど幅広いジャンルの曲があり、あっと言う間にこの街のバンドファン、特に中高生を中心とした若い女性の心を鷲掴みにした。

もっとも人気の一つに、先程挨拶したヴォーカル・海(カイ)の中性的で見目麗しいルックスもあると思うが。
あたしは海よりも、その隣にギターを手に立つ彼を見つめた。
明(アキラ)―…。
フェニックスのギター担当であり、その作曲のほとんどをドラムの慎(シン)と共に手掛けている。

180センチを超える長身にスラっとした痩せ型で、やや長めの黒髪に端正な顔立ちが映える。
特にその切れ長の瞳は捕らえたものを魅了する不思議な力を持つのではないだろうか。
あたしもその一人だ。

あたしは元々中学生の頃からロック音楽が好きだった。
最初はプロとしてデビューしているメジャーバンドが好きだったが、アマチュアバンドに興味を持ったのが約2年前。
深夜にテレビ放送されているバラエティ番組の主題歌を気に入ったのがきっかけだった。
その主題歌を歌うバンドの名前がわからずインターネットで調べた結果、彼らはプロとしてはまだ駆け出し中であった。
しかしアマチュア時代のファンからの根強い人気があり、メンバーの出身地がこの街で、もうすぐ凱旋ライブが―そう、あたしが今まさにいるこのライブハウスで−行うらしい。

最初はほんの興味本位で、千晶を誘って彼らのライブに足を運んだ。
もちろんその時も、彼らのライブの前に前座として、何組かのアマチュアバンドが演奏を行った。
その中の一つが、フェニックスだった。

あたしは元々お目当てだったそのメジャーバンドよりも、彼らに心を奪われた。
身体中に電流が走ったような感覚になり、周りの観客はおろか隣にいた千晶の存在も目に入らず、ここが人が大勢いるライブハウスなのだと言う事すら忘れた。

ただ目で彼らだけを見て、耳で彼らの音だけを聴いて、心で彼らの存在だけを感じていた。
いや、正直に言えば明にだったが。
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