あなたへ。
今日のライブが全て終了した今の時刻は21時40分。
あたしは【MARS】の関係者用出入口の前の道路にいた。
正確に言えば、並んでいた。
同じように、フェニックスの出待ちをしている女の子が15人はいて、入待ち・出待ちを禁止していないMARSのスタッフから、「出待ちをするならここに並んで」と指示されたからだ。

こうして芸能人やスポーツ選手などのファンが、彼らがテレビスタジオや競技場などでの公園や競技を終えて出てくるのを見たり、声をかけようと施設の出入口で待つことを【出待ち】と言う。
その逆でこれから公演先などに入ることを待機することを【入待ち】と言う。

芸能人やスポーツ選手に比べたら、まだまだ知名度は低いインディーズバンドにおいても、ファンによるその現象は発生する。

むしろ、インディーズバンドだからこそこうして熱心に入待ち・出待ちをするファンの子が多いのではないだろうか?

入待ち・出待ちの際に、バンドのメンバーに差し入れを渡したり、名刺や手紙を渡したり、話しかけたりして顔と名前を覚えてもらう絶好のチャンスだからだ。

フェニックスは、そういうファンへの対応は優しいと噂や聞いていた。
時には優し過ぎて、トラブルを招くこともあるみたいだが…。

フェニックスのライブがある日は平日が多いので、朝からバイトがあるあたしは入待ちはもちろん、出待ちもしたことがなかった。
かれこれ一時間近くはこうして並んでいる。

これからフェニックスのメンバーを待ち手紙を渡して帰路につくとしたら、家に着くのは23時近くにはなるだろう。
明日のバイトが辛いが、こればかりは仕方がない。

あたしの前に並んでいる、まだ高校生と思われる、モード系のファッションに身を包んだ女の子の頬から、白く生えている産毛を見つけ、まだ背伸びをしたがる少女のあどけなさを感じた。

「あ!出てきた!」

誰かが声を上げた。
それとメンバーが出てきたのとファンが一斉に彼らに群がったのはほぼ同時のタイミングだった。

「いやぁみんな、今日はありがとねー」

ヴォーカルの海が手をひらひらさせながら、飄々と言う。
ファンはそれぞれお目当てのメンバーに群がり、結果的にヴォーカルの海とベースの琉斗(リュウト)、ギターの明とドラムの慎と二手に別れていた。
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