あなたへ。
その電話から約三時間後。
あたしは明との約束通りA駅の改札前にいた。
あれから大急ぎでシャワーを浴び、髪を乾かした後セットをし、化粧をし、着ていく服に至っては一時間近く悩みに悩んだ挙げ句−あまり普段着らしいのは論外だが、華美過ぎたものを着て明に滑稽に思われるのは嫌だった−いつも通りまどかや千晶と街へ買い物に行ったり、映画を観たりする時のテイストに落ち着いた。
ブルーのGジャンに、水色の七分袖のブラウス、下はピンクのパステルカラーのフレアスカートに、薄グレーのカラータイツ、靴は若者に人気のブランドものの白いスニーカーだ。
バッグは黒とピンクの水玉模様のリュックである。
もう18時を10分は過ぎているのに、未だに明はやってこない。
あたしは携帯を何度も開いては、明から電話やメールが着ていないか確認した。
が、それはだんまりを決め込むだけ。
あたしは軽くため息を吐くと、暇潰しも兼ねて、バッグから鏡を取り出すと自分の髪や化粧に乱れがないか確認した。
鏡を見た瞬間、ギョッとした。
いつになく、化粧を濃くしてしまった。
まどかや千晶には、「杏子は色白で羨ましいなぁ」と言われるけれど、元々色素が薄い肌にこんなにファンデーションを塗りたくっては、昔放送していたバラエティ番組でコメディアンが演じていた時代劇の役柄ではないか。
水玉のアイシャドウも、ピンクのチークもリップも、何もかもがやり過ぎだ。
それだけ、明に良く見られたかったんだ。
明に会えることが、楽しみで楽しみでしょうがなかったんだ。
そう自覚するのと同時に、なんだかそこまで気合いを入れているのは自分だけのような気がして、何か滑稽に感じた。
明は来ないし、そもそも本当に来てくれるのか。
もしかしたら、からかわれただけかもしれない。
いやあの電話の時点では、確かに来る気はあったのかもしれないが、やっぱり面倒臭くなって来ない、という事も考えられる。
そうするとこの場に残されるのは、空回りしている一人の哀れなピエロだけ。
顔が白くて、化粧が濃いなんてまさにピエロにぴったりだ。
自分が情けなくなり、もういっそ帰ってしまおうかと思ったその時−…。
「ゴメンゴメン、遅くなっちゃって」
まさか。本当に、来てくれたんだ。
今この瞬間、あたしの目の前に現れたのは、まさしくフェニックスのギタリスト・明そのものであった。
「い…いいえ…」
あたしは全身が一気に強ばり、蚊の鳴くような声しか出せなかった。
「ちょっと野暮用でさ、結構時間かかっちゃって。本当にゴメン。」
身長180センチ以上の明は、あたしと視線を合わせるように身を屈め、両手を合わせ謝っている。
服装も、ライブの時の様な黒を基調にしたモノトーンではなく、白地に赤と青のボーダーが入ったカットソーにグレーのパーカーを羽織り、ボトムは色褪せたデニムだった。
まさにどこにでもいる大学生、と言ったファッションである。
それがあたしの知っている明のイメージをいい意味で裏切ってくれて、なんだかおかしくなり、つい吹き出してしまった。
「あ、笑った。良かった。」
明も笑った。
二人で笑い合うと、その距離がほんの少しだけ縮まった様な気がした。
「ところでさ、俺昼飯食っていなくてさ、腹減ってない?」
そう言えば、今日はあたしも遅い朝食を取っただけで、確かに腹は減っている。
でも、なんだかもう、明とこうしているだけで、もうお腹がいっぱいで−…。
「あっ、あたしはあまり…」
と言いかけたところで、あたしの腹時計が勢い良く鳴った。
我ながら、こいつは場の雰囲気を良く察知するのだ。
それを聞いて、明は声を出して笑った。
「なんだ、腹減ってんじゃん。よし、じゃあ決まり!飯にしよう」
そう言って、近くにあるファミリーレストランを指差す。
…果たしてあたしは、満足に食事を取れるのだろうか。
あたしは明との約束通りA駅の改札前にいた。
あれから大急ぎでシャワーを浴び、髪を乾かした後セットをし、化粧をし、着ていく服に至っては一時間近く悩みに悩んだ挙げ句−あまり普段着らしいのは論外だが、華美過ぎたものを着て明に滑稽に思われるのは嫌だった−いつも通りまどかや千晶と街へ買い物に行ったり、映画を観たりする時のテイストに落ち着いた。
ブルーのGジャンに、水色の七分袖のブラウス、下はピンクのパステルカラーのフレアスカートに、薄グレーのカラータイツ、靴は若者に人気のブランドものの白いスニーカーだ。
バッグは黒とピンクの水玉模様のリュックである。
もう18時を10分は過ぎているのに、未だに明はやってこない。
あたしは携帯を何度も開いては、明から電話やメールが着ていないか確認した。
が、それはだんまりを決め込むだけ。
あたしは軽くため息を吐くと、暇潰しも兼ねて、バッグから鏡を取り出すと自分の髪や化粧に乱れがないか確認した。
鏡を見た瞬間、ギョッとした。
いつになく、化粧を濃くしてしまった。
まどかや千晶には、「杏子は色白で羨ましいなぁ」と言われるけれど、元々色素が薄い肌にこんなにファンデーションを塗りたくっては、昔放送していたバラエティ番組でコメディアンが演じていた時代劇の役柄ではないか。
水玉のアイシャドウも、ピンクのチークもリップも、何もかもがやり過ぎだ。
それだけ、明に良く見られたかったんだ。
明に会えることが、楽しみで楽しみでしょうがなかったんだ。
そう自覚するのと同時に、なんだかそこまで気合いを入れているのは自分だけのような気がして、何か滑稽に感じた。
明は来ないし、そもそも本当に来てくれるのか。
もしかしたら、からかわれただけかもしれない。
いやあの電話の時点では、確かに来る気はあったのかもしれないが、やっぱり面倒臭くなって来ない、という事も考えられる。
そうするとこの場に残されるのは、空回りしている一人の哀れなピエロだけ。
顔が白くて、化粧が濃いなんてまさにピエロにぴったりだ。
自分が情けなくなり、もういっそ帰ってしまおうかと思ったその時−…。
「ゴメンゴメン、遅くなっちゃって」
まさか。本当に、来てくれたんだ。
今この瞬間、あたしの目の前に現れたのは、まさしくフェニックスのギタリスト・明そのものであった。
「い…いいえ…」
あたしは全身が一気に強ばり、蚊の鳴くような声しか出せなかった。
「ちょっと野暮用でさ、結構時間かかっちゃって。本当にゴメン。」
身長180センチ以上の明は、あたしと視線を合わせるように身を屈め、両手を合わせ謝っている。
服装も、ライブの時の様な黒を基調にしたモノトーンではなく、白地に赤と青のボーダーが入ったカットソーにグレーのパーカーを羽織り、ボトムは色褪せたデニムだった。
まさにどこにでもいる大学生、と言ったファッションである。
それがあたしの知っている明のイメージをいい意味で裏切ってくれて、なんだかおかしくなり、つい吹き出してしまった。
「あ、笑った。良かった。」
明も笑った。
二人で笑い合うと、その距離がほんの少しだけ縮まった様な気がした。
「ところでさ、俺昼飯食っていなくてさ、腹減ってない?」
そう言えば、今日はあたしも遅い朝食を取っただけで、確かに腹は減っている。
でも、なんだかもう、明とこうしているだけで、もうお腹がいっぱいで−…。
「あっ、あたしはあまり…」
と言いかけたところで、あたしの腹時計が勢い良く鳴った。
我ながら、こいつは場の雰囲気を良く察知するのだ。
それを聞いて、明は声を出して笑った。
「なんだ、腹減ってんじゃん。よし、じゃあ決まり!飯にしよう」
そう言って、近くにあるファミリーレストランを指差す。
…果たしてあたしは、満足に食事を取れるのだろうか。