あなたへ。
「今はちょっと喧嘩して、たまたま離れてるけど、またすぐヨリは戻るんだから。それを途中から割り込んできて何なわけ?」
アユミもあたしを睨み付けながら、早口でまくしたてる。
そう言えばライブが終わってアユミに腕を掴まれた時、その手の力が思いの外強くて、振り払おうとしたけど出来なかった。
こんな、風が吹いたら飛んでいきそうな細くて薄い身体の一体どこにあんな力があったのだろう。
「あたしは…明とは、友達として一緒にいるんです。だから明が誰と付き合おうが、雛妃さんとヨリを戻そうが、あたしには関係ありません。ご自由にしてください」
生来の気の弱さのせいか、あたしは三人の顔は見れずに、でも精一杯の勇気を振り絞り反論した。
この三人は根本的に勘違いをしている。
三人はあたしが明と雛妃の恋路を邪魔する泥棒猫だと思い込んでいる。
そりゃあ確かに、あたしは明が好きだが、二人の関係は今のところただの【友人】なのである。
もし明が雛妃とヨリを戻したとしても、それは明が決めることであり、【友人】のあたしにはどうこう言う権利はない。
もし実際にそうなったら−今度こそ、この気持ちは断ち切らなければいけないが、仕方ない。
【友人】として個人的に会えなくなることよりも、今日みたいにライブハウスで、フェニックスのギタリストでいる明に会えなくなる方が、あたしには辛かった。
「なにこいつ、生意気!!」
そんなあたしの思いは三人には届かなかった様だ。
リナがまた大声を出した。
その際に唾があたしの顔に飛んだため、手で拭った。
「とかなんとか言って、どうせあんたも、明目当てなんでしょ?
友達だなんだって綺麗事言ってるけどさ、本当は明と付き合いたくてたまらないくせに。あんたの顔を見ればわかるよ」
アユミがおかしそうに笑って言う。
その言葉にあたしの胸は疼いた。必死に抑圧していた本心を、万に一つの確率に賭けた願望を、見透かされた様に感じたから。
雛妃もまた口元だけ笑ってはいたが、目は先程と同様冷たいままだった。
まるで巣にかかった獲物の蝶を、どうやっていたぶろうかと楽しむ蜘蛛のような女だ、と思った。
アユミが更に続ける。
「あんたと明が釣り合う訳ないじゃん。大体あんたさ、新参ファンのくせに、古参のあたし達に挨拶もナシでさ。
前から気に入らないと思ってたんだよ」
アユミのこの完全に相手を馬鹿にしきった表情と態度。
小・中学校とあたしをいじめていたクラスメイトの女子にそっくりだった。
何故あの時あたしは、あいつらに「やめて」と言わなかったんだろう、親や教師が頼りなくても、他に誰も味方がいなくても、何故いじめに立ち向かわなかったんだろう。
あたしの味方になれるのは、あたししかいないのに。
あんな思いは、もう嫌だった。
あたしは真っ正面から、アユミを、リナを、そして雛妃を見据えて言った。
「新参とか、古参とか、同じフェニックスのファン同士じゃないですか。
それなのに、そんな派閥争いみたいな事をしなくちゃいけないんですか?くだらない」
この事については、あたしも以前から疑問だった。
例の掲示板にも、「新規のファンの子は、なるべく雛妃に挨拶した方がいい。あいつに嫌われると面倒だよ」と書き込みがあった。
確かにファンが勝手な行動をして、他のファンやメンバーに迷惑をかけない様に、規制する人は確かに必要かもしれない。
でも、彼女達のやっている事はただの支配でしかない。根本的には学生時代の女子によくある仲良しグループ同士の派閥争いに過ぎない、とあたしは思う。
あたし達のグループに入るんだったら、仲良くしてあげる。でも入らないんだったら−いじめるからね。
「くだらないって…ホントにこいつ、生意気!!」
リナがまた声を荒げた。
あたしはまた飛んだ唾を避けるべく顔を背けた。
さっきから生意気と言う単語を連呼して、リナはあまり頭は良くなく、弁も立たないタイプだろうと思った。
典型的な強い者に媚びへつらう腰巾着。虎の威を借る豚−いや狐だったか。
「へぇ…。意外に芯は強いのね。見直したわ。」
雛妃が、感心した様に目を丸くして言う。
これもあたしを小馬鹿にする為にやっている演技であるならば、大した女優である。
あたしは気にせず続けた。
「確かにあたしは、明のファンです。でも、それ以前にフェニックスのファンなんです。
フェニックスの曲が大好きで、聴くと楽しい気持ちになったり、落ち込んだ時は励まされました。
彼らの曲は、本当に支えなんです。だから彼らが、もっと上のステージに立てる様にと願って、今日もこうしてライブに応援しに来たんです。
他のファンだって、ほとんどの子は、あたしと同じように思っているハズです。それなのに、こんな縄張り争いみたいな…。ファン同士の空気を乱しているのは、あなた達の方ですよ」
「話をすり替えんじゃねーよ!!」とまたリナが声を上げた。
雛妃がアユミに目配せをする。するとアユミは皮のバッグから、何かを取り出した。
彼女が握っているのは…どこにでもある、何の変哲もない文房具のハサミだった。
あたしの髪を切るつもりだ−…。
ハサミの刃が、夜空に浮かぶ月に反射して鋭く光る。
「これはこれは、なんとまぁいい演説だったよ。でもね…二度と明に近付けない様にしてあげるよ」
逃げよう、と思った時にはもう遅かった。
あたしはリナに羽交い締めにされ、身動きが取れなくなっていた。
ゆっくりと、ハサミを持ったアユミがこちらに近付いてくる。
こんな風に、雛妃達に目を付けられ【制裁】を受けたファンは他にもいるんだろう−…とぼんやり考えたその時。
「やめろ!!」
聞き覚えのある声がしたと同時に、黒い影がアユミに体当たりを食らわせた。
身体の細いアユミは悲鳴を上げてもろに吹っ飛び、手からハサミが落ちた。
黒い影が素早く道路に落ちたハサミを手に取る。
明だった。
アユミもあたしを睨み付けながら、早口でまくしたてる。
そう言えばライブが終わってアユミに腕を掴まれた時、その手の力が思いの外強くて、振り払おうとしたけど出来なかった。
こんな、風が吹いたら飛んでいきそうな細くて薄い身体の一体どこにあんな力があったのだろう。
「あたしは…明とは、友達として一緒にいるんです。だから明が誰と付き合おうが、雛妃さんとヨリを戻そうが、あたしには関係ありません。ご自由にしてください」
生来の気の弱さのせいか、あたしは三人の顔は見れずに、でも精一杯の勇気を振り絞り反論した。
この三人は根本的に勘違いをしている。
三人はあたしが明と雛妃の恋路を邪魔する泥棒猫だと思い込んでいる。
そりゃあ確かに、あたしは明が好きだが、二人の関係は今のところただの【友人】なのである。
もし明が雛妃とヨリを戻したとしても、それは明が決めることであり、【友人】のあたしにはどうこう言う権利はない。
もし実際にそうなったら−今度こそ、この気持ちは断ち切らなければいけないが、仕方ない。
【友人】として個人的に会えなくなることよりも、今日みたいにライブハウスで、フェニックスのギタリストでいる明に会えなくなる方が、あたしには辛かった。
「なにこいつ、生意気!!」
そんなあたしの思いは三人には届かなかった様だ。
リナがまた大声を出した。
その際に唾があたしの顔に飛んだため、手で拭った。
「とかなんとか言って、どうせあんたも、明目当てなんでしょ?
友達だなんだって綺麗事言ってるけどさ、本当は明と付き合いたくてたまらないくせに。あんたの顔を見ればわかるよ」
アユミがおかしそうに笑って言う。
その言葉にあたしの胸は疼いた。必死に抑圧していた本心を、万に一つの確率に賭けた願望を、見透かされた様に感じたから。
雛妃もまた口元だけ笑ってはいたが、目は先程と同様冷たいままだった。
まるで巣にかかった獲物の蝶を、どうやっていたぶろうかと楽しむ蜘蛛のような女だ、と思った。
アユミが更に続ける。
「あんたと明が釣り合う訳ないじゃん。大体あんたさ、新参ファンのくせに、古参のあたし達に挨拶もナシでさ。
前から気に入らないと思ってたんだよ」
アユミのこの完全に相手を馬鹿にしきった表情と態度。
小・中学校とあたしをいじめていたクラスメイトの女子にそっくりだった。
何故あの時あたしは、あいつらに「やめて」と言わなかったんだろう、親や教師が頼りなくても、他に誰も味方がいなくても、何故いじめに立ち向かわなかったんだろう。
あたしの味方になれるのは、あたししかいないのに。
あんな思いは、もう嫌だった。
あたしは真っ正面から、アユミを、リナを、そして雛妃を見据えて言った。
「新参とか、古参とか、同じフェニックスのファン同士じゃないですか。
それなのに、そんな派閥争いみたいな事をしなくちゃいけないんですか?くだらない」
この事については、あたしも以前から疑問だった。
例の掲示板にも、「新規のファンの子は、なるべく雛妃に挨拶した方がいい。あいつに嫌われると面倒だよ」と書き込みがあった。
確かにファンが勝手な行動をして、他のファンやメンバーに迷惑をかけない様に、規制する人は確かに必要かもしれない。
でも、彼女達のやっている事はただの支配でしかない。根本的には学生時代の女子によくある仲良しグループ同士の派閥争いに過ぎない、とあたしは思う。
あたし達のグループに入るんだったら、仲良くしてあげる。でも入らないんだったら−いじめるからね。
「くだらないって…ホントにこいつ、生意気!!」
リナがまた声を荒げた。
あたしはまた飛んだ唾を避けるべく顔を背けた。
さっきから生意気と言う単語を連呼して、リナはあまり頭は良くなく、弁も立たないタイプだろうと思った。
典型的な強い者に媚びへつらう腰巾着。虎の威を借る豚−いや狐だったか。
「へぇ…。意外に芯は強いのね。見直したわ。」
雛妃が、感心した様に目を丸くして言う。
これもあたしを小馬鹿にする為にやっている演技であるならば、大した女優である。
あたしは気にせず続けた。
「確かにあたしは、明のファンです。でも、それ以前にフェニックスのファンなんです。
フェニックスの曲が大好きで、聴くと楽しい気持ちになったり、落ち込んだ時は励まされました。
彼らの曲は、本当に支えなんです。だから彼らが、もっと上のステージに立てる様にと願って、今日もこうしてライブに応援しに来たんです。
他のファンだって、ほとんどの子は、あたしと同じように思っているハズです。それなのに、こんな縄張り争いみたいな…。ファン同士の空気を乱しているのは、あなた達の方ですよ」
「話をすり替えんじゃねーよ!!」とまたリナが声を上げた。
雛妃がアユミに目配せをする。するとアユミは皮のバッグから、何かを取り出した。
彼女が握っているのは…どこにでもある、何の変哲もない文房具のハサミだった。
あたしの髪を切るつもりだ−…。
ハサミの刃が、夜空に浮かぶ月に反射して鋭く光る。
「これはこれは、なんとまぁいい演説だったよ。でもね…二度と明に近付けない様にしてあげるよ」
逃げよう、と思った時にはもう遅かった。
あたしはリナに羽交い締めにされ、身動きが取れなくなっていた。
ゆっくりと、ハサミを持ったアユミがこちらに近付いてくる。
こんな風に、雛妃達に目を付けられ【制裁】を受けたファンは他にもいるんだろう−…とぼんやり考えたその時。
「やめろ!!」
聞き覚えのある声がしたと同時に、黒い影がアユミに体当たりを食らわせた。
身体の細いアユミは悲鳴を上げてもろに吹っ飛び、手からハサミが落ちた。
黒い影が素早く道路に落ちたハサミを手に取る。
明だった。