あなたへ。
高校を卒業した後、漠然と短大か専門学校に進学するんだろうなとは思っていた。
でも具体的にどんな分野で、何の勉強をするのか、と言う事は全く考えた事がなかった。
確かに、元々服やアクセサリーやお洒落をする事が好きだけれど、それを仕事にしようなどと思った事もなく、そこまでの好きでもなければ情熱もなかった。
要するに、やりたい事も将来の夢もなかったのである。
おまけにこれと言った趣味も特技も、短所ならいくらでも思い付くけれど、長所もない。
ただ毎日毎日「楽しい事ないかな」と思いながら、何となく過ごしていた。

ところが、高校2年の冬に、パパが長年勤めた会社をリストラされてしまい、家計は火の車寸前。
退職金も雀の涙ほどしか出なく、パパの失業保険とママのパート代だけでは生活が苦しく、高校受験を控えた瞬介は「俺、受験辞めて働くよ!!」とまで言った程だった。
そんな状況で、どうして専門学校に進学したいと言えただろうか。

ママが切羽詰まった表情で、半ばヒステリックに「杏子、卒業したら就職してちょうだい!!いいわね!?」と言われるより早く、あたしは高校3年になってすぐ、進路希望を進学から就職に切り替えていた。

ここまで思い出すと、いつも胸の奥がチクリと痛む。
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