3を3回、2を2回




予備校に向かう道すがら、目の前を透明なビニール傘が2つ並んでいるのが見えた。


自然と歩くスピードが遅くなるニコ。





五月の雨は優しく降る。
そのため、意地悪にも、前の二人の会話を掻き消してはくれなかった。





「俺さ、昨日あやちゃんと遊んだんだよ」

「マジで?!」

「マジ。俺の努力の結晶だな」

「なぁヤった?」




下世話な話。

すごく胸のあたりがザワザワした。





「教えねーし。」

「はぁ?いいじゃん!てか俺もあやちゃんとヤりてー」

「お前は無理っしょ。せいぜいあいつがイイトコでしょ」

「どいつ?」




ザワザワ




「ほら、男だか女だかわかんねーやつ」

「あぁ、でかいの?」




ザワザワ
ザワザワザワザワ




「そうそう。てか実際どっち?」

「女っしょ?おっぱいあるもん」

「お前はそんなんばっか見てるなー」

「いやー、でもあれは無理でしょ。うざい」

「確かになー」




「「かわいくねーし」」





ニコはただ立ち尽くすしか出来なかった。


ビニール傘はけたけたと笑い声を残しながら遠くなり、やがて校舎へ消えていった。




しとしとしと

雨はやまない。




雨なのか、
涙なのか、

味のしない水滴がニコの唇を流れる。










『こんなはずじゃなかったのに!!!』











ニコは衝動的にそのまま来た道を戻り出す。



すれ違うサラリーマンや
地下鉄の車掌
走っていく大学生
眠たそうな高校生
いつもなら不快でしかない中年のおじさんも


世の中の男という男が、

「かわいくない」
「うざい」
「おっぱいだけでかい」



と、
私を指差して笑ってる。





そう思い込んだニコは、
前を見ることなくずっと下を向き一秒でも早くと家路を急いだ。





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