嘘つき⑤【-sign-】
「やっぱり、琴音さんだわ。今日も素敵なドレスねぇ」
その女性は真っ赤なルージュをクイと曲げる。琴音さんを褒めた口調は形式的でむしろ自分の美貌を誇っているかのような女性。スナックのママみたいな雰囲気。誰か、なんて興味はなくて、ただこの状況に全く関係ない第三者が入ってきた事にあたしは無意識にホッとしていた。
「美弥子さんこそ、とてもお綺麗ですわ」
琴音さんは優雅に微笑む。その返答に満足したようにその女性は高らかに笑った。
天童さんに、この美弥子と呼ばれる人に、琴音さん。種類の違う美人が集まればそれだけで迫力がある。結城さんなんかそれに圧倒されたようで、あたしはクスっと笑うとその手を引いた。
あたしだけ間違いなく場違いだ。
――――――このタイミングでこの場所を抜けよう。