嘘つき⑤【-sign-】
■大原 琴音side■
◇琴音side◇
美弥子さんは、天童さんの存在などに目を向けず恭平さんに気付くと「そちらの方は?」とまた艶めかしく笑いながら甘い声をかける。恭平さんは「惣本と申します」と頭を下げて、まるで、美弥子さんの色気には動じてないようだった。
美弥子さんの存在を見つけたのはこの会場に入ってすぐ。隣にいたのは愁哉さんでも父様でもなく、吸収されたこの会社の会長。堂々と腰に回された腕。愛人、か何かなんでしょう。
ぼんやり思ったのは、そういう事でしたのね。という薄い感情。
利用されたのは一体誰なのかしら。卑屈な感情を持ちながらそれを当たり前の様に受け止める私はもう普通ではないのでしょう。
どちらにしても、もう会う事はないと思っていた美弥子さんは、案外重要な位置にいたのだと理解した。