嘘つき⑤【-sign-】
愁哉さんの瞳が、間を置かず私を捕らえた。レンズ越しの理知的な瞳が細まって、あの日から会うのは初めてなのに、やっぱり壁を挟んだ表情に気後れしてしまう。


「楽しんでいますか?」


何も変化のない口調はほんの少しの微笑を添えて私に真っ直ぐ向けられる。


「ええ、図々しくお邪魔して申し訳ありませんわ」


実際、私と気付いた何人かの招待客はわざわざ挨拶にいらしてくれたから。

「いえ、あなたがいると華がある」

当たり前の様に言うその言葉にドキリとする心臓を悟られないように飲み込んだ。どうしてこの人はこんなにも無自覚なのかしら。
私は視線を逸らして、下を向くしか出来ない。手元に僅かに力が入った。

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