嘘つき⑤【-sign-】
「出張から戻ってきたばかりで申し訳ないな。今回はどうだった」
父様は、威圧的な低い声で、全く謝罪を含まない口調を彼に向ける。
あたしは、顔を上げられずに、手元だけをみつめていた。
「ええ、今回の視察は大変勉強になりましたね。」
冷たい声、
「そうか、向こうの社員がかなり恐縮していたぞ。相変わらず、完璧な仕事ぶりだそうだな」
「いえ、当たり前の行動をしたのみです」
父様相手に全く怯まない口調。
何ひとつ変わってない。
愁哉さんの声。
「…琴音さんね?初めまして」
そして、彼とよく似たトーンの口調が、あたしに投げかけられた。