嘘つき⑤【-sign-】
■冴木 花梨side■
◆花梨side◆
心臓がゴトリと動いた。
長い睫毛に覆われた大きな瞳があたしを捉える。薄ピンクの唇が艶やかに揺らめいて、きめ細かい白い肌にどの部分も見とれてしまう位、やっぱりこの人は綺麗だ。
本当は、視線を合わせたくなんてなかった。
本当は、この場で会うなんて、張り詰めた感情に支配されてしまいそうだった。
あたしは、この美しい人を、酷く、傷つけたから。
謝りたい、だけど、それは口には出来ない。
あの日、あたしが彼女に向けた言葉は本心で、部長に向けた感情に、嘘はないもの。だけど、今向かい合う不思議な感覚に包まれて麻痺してしまいそうな程複雑になっていく。
彼女に真っ直ぐに見つめられて、醜い感情が吐露されたみたいになる。何故か泣きたい位逃げ出したくて。
それでも逸らせない瞳に、映るあたしはきっと、嘘つきで。