斜陽
茜色の空にカラスの声がこだました。普段なら雑音だらけのこの世界。
何故か鮮明に聞こえたカラスの声がひどくノスタルジックな感傷を呼び覚ますようで少しずつ心の奥に影を落とした。

(光が遠くなる)

それはいつか触れることもできなくなる光。
こんなに近いのに遠くなる。
一歩踏み出したところで追い付けない光。
いつか見えなくなってしまう。
俯いたまま、正面に浴びる光は遠く。
なのに、今まで見えなかったはずの影がつま先と重なった。

(影…?)

ほんの少し視線を上げると、黒く伸びた影が、本当ならもっと遠い距離にある彼の姿を象っていた。
歩くよりもずっと早く光は遠くに行っていたことの証明。
影は長く長く伸びていた。

「置いてくぞ。」

不機嫌そうな声。遠いのに近い。おかしな錯覚。
恐る恐る伸ばした掌が、伸びた影と重なった。

小さな勇気があと少し、もう少し手を伸ばせば大きな勇気になれるような気持ちになった。








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