紫御殿†Purple heart
私は、自分の部屋に戻り
ドアを閉めた。

その音が家中に響き

母の胸を締め付ける。

机の上に教材を置き
片隅に伏せられたままの
フォトフレームを手に取る。

そこには、幸せな家族の姿が
写る。

今から10年前、私が小学校に
入学した年の寒い冬に
父は病気で亡くなった。

実業家だった父は、母と私達
が生活に困らない程の遺産を
残してくれた。

それに元々、母の実家は
資産家でその援助もあって
父を亡くしたからと言って
生活は何も変わらない。

不景気で職場を追い出される
人がいる中

母は、祖父の事業のひとつ
ホテル業の仕事に
携わる事ができ

父を亡くして寂しくはあったが
生きていく事に不安を感じた事
など無かった。
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