恋咲

「お母さん、行ってきま~す!」
「行ってきます!」
お兄ちゃんと私は玄関でお母さんに向かって叫んだ。

「あらあら、もう行くの?」
お母さんがエプロンを外しながら歩いてきた。

「もうって…。いつもと同じだよ?」
私が苦笑いで言うと、
「…あら?そうだったかしら?」
お母さんが首を少し傾げた。

「そうだよ。いつも同じ!」
「そうなの?じゃあ行ってらっしゃい♪」
お母さんはニコニコしながら手を振っていた。

「…う、うん。行ってきます!」
「じゃ、行って来るよ。母さん」
私が扉を閉めた。
バタン

お兄ちゃんはお母さんの前ではあまり笑顔を見せない。
なぜならお兄ちゃんが笑うとお母さんが褒めまくるからだ…。

お兄ちゃんは「メンドくさい」と言ってあまり笑顔を見せない。
私は笑わない事ができない。
あの事があってから家族はあたしの事を気にかけてくれている。
だから、家族を心配させないためにも常に笑顔でいなきゃダメなんだ。

べつに笑う事が嫌いなわけじゃないけど…。
私だって泣きたい時はあったわけで、前は心の中ですごくイライラしていた。

そんな私の心を救ってくれたのが、お兄ちゃんとあたしの親友。


お兄ちゃんはすごくモテる。
だけど、私の事があってから彼女は作っていない。

私のせいで…。
そう思いながらお兄ちゃんの横顔をじっと見つめた。

「はぁ…」
えっ?
お兄ちゃんがため息をついた。
「悲しい顔しながら見んなよ」
えっ!?
「き、気づいてたの!?」
私が驚いて聞くと、
「あったりまえだ。バーカ!」
そう言ってまた私のおでこにデコピンした。

「いった~い!だ・か・ら~!!お兄ちゃんは力が強いんだからやめて!」
私がおでこを擦りながら言った。
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