恋咲
竹井くんは信じられない事を言った。
「で、でも。竹井くんは優しかった…よ?」
「…だからそれは猫被ってただけ。ホントの俺はこっち」
「……ホントの…俺?」
「そ。なんならこっちの俺がホントって知ってもらってもいんだけど?」
意地悪な笑み。
ヤバい…。
本能的に感じた事。
ここは教室。
外からは部活をしている野球部やサッカー部の声が聞こえる。
私の背中には扉がある。
その差3メートルぐらい。
ダッシュすれば大丈夫、と思った。
「ご、ごめん、竹井くん。今から用事あるから…」
そう言ってクルッと竹井くんに背を向けた。
1歩踏み出そうとした瞬間…。
ホントに一瞬の出来事。
「逃がさない」
「!?」
パシッと私は竹井くんに手首を掴まれていた。
それだけでも驚いたのに。
バンッ!
私は竹井くんと壁の間に挟まれていた。
な、何!?
何が起こったの!?
頭がついていかないほどホントに素早い出来事だった。
クスッと頭上から笑い声が聞こえたから見上げて見ると、竹井くんが笑っていた。
その笑顔は普段の竹井くんの笑顔じゃなく、もっと自然な笑顔だった。
そんな竹井くんを見て、不覚にもきゅ~んとしてしまった。
だ、ダメ!!
私はもう恋はしないって決めたんだから…。
「…何首振ってんの?」
え…。
まさか行動に出てた?
竹井くんは私がフルフル首を横に振っているのが不思議に思ったらしく、首を少し傾げていた。