恋咲
…なんて事があって今のこの状況になった。
「南」
沈黙に耐えきれず口を開いた、が、南美の言葉に遮られた。
「ありがと…。心配してくれて。でも、ホントに大丈夫だから離して…?」
俯き、ゆっくりと話す南美はホントに落ち着いた様子。
でも、離したくない。
ずっとこーしてたい。
「…あの、竹井くん?聞こえてるんだけど…」
……はっ!?
まさか口に出してた?
俺の顔はどんどん熱くなっていった。
気付かれないために南美から離れ、顔を逸らした。
「…?」
南美の顔は見えなかったが視線は感じる。
その視線に耐えきれず「…俺帰るわ」振り返り南美を背にし、スタスタ自分の席に行き、鞄を取り、机の間をすり抜けた。
その間南美はずっと俺の事を瞳で追っていた。
南美の方にちらっと瞳をやると、ぽかーんとしていた。
それを気にしないようにして、後ろの扉まで行き扉に手をかけた。
南美の方に振り返り言った一言は、
「…じゃっ」
俯いていたため南美の顔は見えなかった。
ガラガラッ
と扉を開け、
ガラガラッ
と閉めた。
終始、南美の顔は見えなかった。
俺は俯きながら早歩きした。
『…じゃっ』て…
カッコ悪っ!!
南美、絶対呆れてるだろーな。
はぁ~
ため息をつきながら下駄箱へ向かった。
でも、
2人だけになれて嬉しかった。
心から言える言葉だった。
俺は教室に2人っきりだけだった事を思い出し、喜びに浸っていた。
しかし、違っていた。
教室にはいなかったものの、俺達の会話を聴いていた奴がいた。
この時の俺は、浮かれすぎていたためかその人物に気が付かなかった…。