恋咲

「た…けい…くん?」
…なんでそんなに悲しそうなの?
私は嗚咽しながらも彼の名前を呼んだ。

「…悪い。泣かせるつもりはなかったんだ」

竹井くんのせいじゃないよ…。
私は俯きながら首を横にフルフル振った。

「ごめんな…」
悲しそうな声。
「…だい…じょ…ぶ」
私は顔を上げた…けど。
前が真っ暗…?
なんで?

あたしの背中に堅い壁の感覚は無くなっていた。
そのかわりに、優しい物が触れていた。
でも、顔の方は堅い物にあたってる。
な、何!?

「ホントごめん…」

えっ?
竹井くんの声が頭の後ろから聞こえてきた。
頭の…後ろ!?

私は竹井くんに抱き締められていた。
壊れ物を優しく包み込むように、そっと。

「…なぁ。なんか訳でもあんのか…?」
「…えっ?」
わ…け?

竹井くんは私から離れた。
でも私を逃がさないためなのか私の二の腕を掴んでいた。

「…なんでいつも断るんだ?誰か1人ぐらいいてもいいだろ?お前はカッコいい先輩に告られても断った。…なんで?」

…や…めて。
お前って呼ばないで…。
昔を思い出しちゃうから…。

私はカタカタ小さく震える唇を動かした。

「…た…けいくん」
「…?」
「…お前って言わないで…」
「へ…?」
「思い出しちゃうから…。ちゃんと…名前で呼んで。…お願い」
私はガタガタ震えてた。

…竹井くんはやっぱり優しい人だよ。
だってガタガタ震えまくってる私を見て二の腕から手を離し、その手を背中に回してギュッと私を包み込んでくれたんだから。
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