恋咲
「…竹井くん、私もうだいじょぶだから離して?」
「…俺が大丈夫じゃない」
「…え」
なんで?
なんでそんなに切なそうな声を出すの?
「…べつに言いたくなければ言わなくていい」
今度はゆっくりと優しく言ってくれた。
私は黙る事しか出来なかった。
「言いたく…ないんだろ?」
質問されてどう言えばいいのかわからなくてただ、こくんと頷いた。
「…なら言わなくていい。おま…南美が悲しくなるよーな事はしたくないし、させなくない」
…なんて優しい人なんだろう。
私の事を1番に思ってくれる竹井くん。
…竹井くんなら私の話、真剣に聞いてくれるかな?
親友以外、誰にも言っていない私の過去…。
…竹井くんには聞いてほしい。
初めて…だな。
この話を男のコに聞いてほしいと思ったのは…。
なんて事を思ってると、竹井くんが口を開いた。
「…じゃあ、俺は行くよ」
そう言って私から離れる。
まっ待って。
…なんで!
なんで声が出ないの?
なんで…。
動かないの?
待ってって言わなきゃ、動かなきゃ!
竹井くんが行っちゃう…。
そんな思いとは裏腹に竹井くんは私の横を通り過ぎ、ドアへと手をかけた。
ガラガラッ
「…言っとくけど。俺、諦めてないから」
「…え?」
やっとの思いで出た声がすっとんきょうな声になってしまった。
竹井くんはそんな事に気をとめず言葉を続けた。
「…南美がOKしてくれるまで何度でも言うよ」
言う?
私はゆっくり振り返った。
さっきは動けなかったのに…。