恋咲

「…竹井くん、私もうだいじょぶだから離して?」
「…俺が大丈夫じゃない」
「…え」

なんで?
なんでそんなに切なそうな声を出すの?

「…べつに言いたくなければ言わなくていい」
今度はゆっくりと優しく言ってくれた。

私は黙る事しか出来なかった。

「言いたく…ないんだろ?」
質問されてどう言えばいいのかわからなくてただ、こくんと頷いた。
「…なら言わなくていい。おま…南美が悲しくなるよーな事はしたくないし、させなくない」

…なんて優しい人なんだろう。
私の事を1番に思ってくれる竹井くん。

…竹井くんなら私の話、真剣に聞いてくれるかな?
親友以外、誰にも言っていない私の過去…。
…竹井くんには聞いてほしい。
初めて…だな。
この話を男のコに聞いてほしいと思ったのは…。

なんて事を思ってると、竹井くんが口を開いた。

「…じゃあ、俺は行くよ」
そう言って私から離れる。

まっ待って。
…なんで!
なんで声が出ないの?
なんで…。
動かないの?

待ってって言わなきゃ、動かなきゃ!
竹井くんが行っちゃう…。

そんな思いとは裏腹に竹井くんは私の横を通り過ぎ、ドアへと手をかけた。
ガラガラッ

「…言っとくけど。俺、諦めてないから」

「…え?」
やっとの思いで出た声がすっとんきょうな声になってしまった。

竹井くんはそんな事に気をとめず言葉を続けた。

「…南美がOKしてくれるまで何度でも言うよ」

言う?
私はゆっくり振り返った。
さっきは動けなかったのに…。
< 5 / 75 >

この作品をシェア

pagetop