恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


ぐっと、藍川の腕を掴む手に力を入れる。

真剣に見上げると、藍川は珍しく戸惑っているようにも思えたけど、そのまま続けた。


「あたしが忘れているのは、藍川の事……?」


時間が止まったように感じた。

藍川もあたしも、目を逸らさずにお互いの瞳だけを見つめていた。


しばらくそれだけの時間が過ぎる。

それに終止符を打ったのは、藍川の言葉だった。


「……俺からは言えない」


なんで?

瞬間的にそんな言葉が口をつきそうになったけど……。

藍川のつらく歪められた目許が、それを止めた。


『言えない』なんて……。

まるで、その裏に何かあるような言い方だ。

違うなら違うで、はっきり言えばいいだけの話なのに。


言えないって事は……、何か理由があるって事?

あたしに言えない理由が。


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