恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
まだ微笑みかけてくる藍川の腕を押して、「ちゃんと挨拶運動してよ」なんて言っていた時だった。
その場の雰囲気が、一気に変わったのは。
ザ……、と、穏やかな風が地面の上だけに吹いて、辺りがしんとした空気に包まれる。
足を止めた生徒達の視線を一身に集めるのは……、校門の真ん中に立つ、女の子だった。
くるくるしたパーマのかかった黒髪は、肩ほどの長さ。
くっきりとした二重の大きな瞳は……、赤黒く光っていた。
“美少女”
そんな言葉がぴったり当てはまりそうな女の子は、藍川を見るなり、無表情のままゆっくりと頭を下げた。
そして、あたし達のいる場所まで近づくと、右手を左胸にあててもう一度頭を下げる。
知らない制服だし、どうやらうちの生徒ではないらしい。
「……っ?」
急に藍川が手を握ってくるから顔を上げると、女の子が話し始めた。