恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
あたしの言葉に、杏子さんは視線を伏せたまま答える。
赤黒い瞳が、わずかに歪められていた。
「お兄様がいらっしゃるけど……少し、問題のある方で」
「問題?」
「育った環境が環境だし、何より王家の血を直接継ぐ方だから、元帥様も何も言えずにいるけど……。
自由奔放で、移り気で……でも、いつも一人で心を閉ざしている方。
あの方と関係を持った者でも、あの方の考えている事を知る者はいない。
誰にも執着せず、誰にも心を開かない。
一時の安らぎを必要とされるだけで、……本当の自分には、誰も近寄らせないの」
孤独の、ヴァンパイア。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
自由奔放で、移り気で……そこまでは、藍川とはかけ離れているように感じた。
だけど……。
一人で心を閉ざしてるっていう部分だけは、藍川と共通してる。
藍川も、あたしから入り込んでいかない限り、心を閉ざして……いつも、一人になろうとするから。
お互いの気持ちをなんとなく分かってきてからは、そのバリアは少し和らいだ気がするけど。