恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「藍川のお兄さん……」
「―――そう。灰斗様」
ポツリと零した発言に、杏子さんが頷く。
その名前を聞いた瞬間、ドクンと強く心臓が動いた。
……―――な、に?
自分でも異変が分かるほどに騒ぎ出す心臓。
それが何でなのかは、分からない……。
でも、あたし、知ってる……。
『灰斗』って人の事……知ってる。
なんで……?
一体いつ……、
「その灰斗様を抑えるためにも、紫貴様がヴァンパイア界を仕切った方がいいのよ。
同じ立場に立てる紫貴様じゃなくちゃ、務まらないの」
真っ直ぐにあたしを見ながら言う杏子さん。
その視線に気付いて、騒ぐ胸を押さえながら深呼吸を数回繰り返した。
そして、視線を返して気持ちを落ち着かせてから、ずっと疑問だった事を聞く。