恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「また噛んでる。いい加減にしてくれ」
本当にそう思ってるみたいに顔を歪める藍川に、言葉も出ない。
だけど……、それは緊張のせいなんかじゃなかった。
今までの緊張はどうしたんだろうって思うくらいに、気持ちが落ち着いていた。
騒がしい廊下からどこかに飛んできちゃったみたいに、周りの音が一瞬にして聞こえなくなる。
藍川の紫色の瞳に捕らえられて、止まる時間。
これは……、
―――デジャヴだ。
『くるみ、その癖やめろ。血の匂いがする』
いつかも、確かそう言われて―――……。
『俺に咬まれたい?』
そう、言われて……。
……―――言われて、って……誰に?
自問自答にハっと我に返ると、目の前にまだ藍川がいる事に気付く。
一瞬脳裏に浮かんだ光景に動揺しながら藍川を見上げると、藍川はあたしをじっと見つめた後、触れていた手を離した。