恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「他の男には言わない方がいい。そんな真剣な顔で言われたら、勘違いする男が多い」
「からかって言ったわけじゃな……、」
「絶対に言うな。いいな」
ちらっと向けられた視線が真剣なモノだったから、何も言い返せなくなってしまう。
ぐっと黙ると、藍川は踵(きびす)を返してまた歩き出す。
離れていく背中を見ながら、さっきの会話を思い出していた。
藍川はあたしの問いにきちんと答えてはくれなかったけど……、でも、否定も肯定もしなかった。
それは、冗談だと思ってちゃんと答えるのもバカバカしいって思ったからかもしれないけど……。
引っかかるのは、その前に見せた表情。
驚いたような表情をした藍川の目が、何かを知っている気がして……。
普段は感情なんかないんじゃないかって思うくらいに、表情を崩したりしないのに……。
なのに、なんで?
なんであんな顔したの?
……それに。