恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
忘れているのが藍川の事だっていうのは分かるのに、どうしてもそれ以上が思い出せない。
それがもどかしくて仕方なかった。
思い出せれば、藍川だってきっと安心してくれるのに……。
どこかに隠れた記憶は、強情なまでにその姿を見せてくれない。
お風呂から上がって、部屋で髪を乾かす。
細長い大きな鏡の前で、いつも通りクッションに座りながら。
「……まただ」
毎日、ドライヤーをかける度にフラッシュバックする映像がある。
それは、誰かに髪を乾かしてもらってる映像。
大きな手が頭を撫でる感触を、ぼんやりと、でも確実にあたしの身体が覚えていて。
それを思い出すたびに、胸がきゅっと縮こまる。