恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
ドクドクドクドク、心臓が嫌な音を立てる。
信じられない頭の代わりに、まるで身体が「そうだ」って念を押しているみたいだった。
唇を噛み締めて鏡の中の自分を見つめてみる。
あたしが忘れている事って、なに?
なんで、忘れてるの……?
鏡の中の自分が、悲しそうに表情を歪めていて……。
そんな自分に余計に悲しくなった。
冷たい鏡に指先で触れる。
自分の事なのに分からない。
思い出せない。
一番大事な事が、すっぽり抜けてる。
「あたし、だよね……?」
その事実が、そんな疑問さえ浮かばせて気持ちが悪い。