恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
心の中でだけ文句を言っていると、隣で大人しく座っていた藍川がくすりと笑う。
どうしたのかと思って顔を上げると、藍川は会計係の女の子を見ながら微笑んだ。
「くるみは色仕掛けするような計算高い女じゃない。……こっちが困るくらいに真っ直ぐでズルさを覚えない。
そういうところに惹かれたんだ」
「ちょっと!! 変な事言わないでよっ! そういう事言うと、また変な風に大きくなった噂話が飛び回る事になるんだから!」
慌てて止めに入ると、藍川はなんでもないように言う。
「噂なんかどうでもいいだろ。他人が言うことなんか好き勝手言わせておけばいい。
とりあえず、大げさでもなんでも、俺とくるみが付き合ってるっていう噂が広がればそれでいい」
「……なんで?」
不思議に思って聞くと、藍川はにっと口の端を上げる。
「新井だとか、臼井。柳沢みたいな輩がもう二度と現れないように」
「……」
「あと、草野が下手に近づかないように」
付け足された言葉は、きっとわざとだ。
あたしの横にいる草野くんに聞こえるように、わざと。