恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「この方は?」
「俺のです。……白々しい演技はやめていただけますか? 孫娘に偵察までさせておいて、それが貴方の耳に入っていないなんて事ないでしょう」
「杏子の報告通り、紫貴さまのお手つき、というわけですか……」
「言うまでもないとは思いますが、万が一、一族の誰かが手を出したら……」
「言われるまでもなく承知していますので、ご心配なさらないでください」
微笑んだ男の人。
だけど、それを見た藍川は皮肉な笑みを浮かべた。
「よく言えますね。……一年前の事だって、俺は許していない。それも忘れないでください」
男の人は、厳しい顔をした後、苦笑いを零す。
空を厚い雲が覆って、辺りを一気に暗くした。
「とりあえず、そちらのお嬢さんに挨拶をしてもよろしいですか?」
その言葉に、藍川と男の人、2人の視線があたしに集まった。