恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「……兄貴の仕業だと?」
「美朱さまも灰斗さまも、ヴァンパイアの種族の中でも群を抜いて感情的なお方です。
王家の血筋を直に継いだからなのでしょうが。
おふたりが怪しいのは、紫貴さまも気付かれていたのでは?」
答えない藍川は、それを肯定しているみたいだった。
なんの話かは分からないけど、簡単に介入しちゃいけないって事だけは分かるから、疑問だらけだったけど黙って藍川を見ていた。
また出てきた『灰斗』の名前に、胸をざわつかせながら。
「だけど、美朱がくるみに手を出す理由なんて……」
「恐らく、灰斗さまの独断だと思われます」
「……まさか。わざわざ兄貴が出向いたとでも? 兄貴はもう俺に用はないはずです」
藍川はわずかに眉を潜めて霧島さんを見る。
厚い雲がかかった空からは、ぽつぽつと細かい水滴が落ち始めていた。