恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
……雨。
そうだ……。
確か、あの日も雨で―――……。
「そのお嬢さんと契約を交わしたのは、灰斗さまです。
真紅の薔薇の前でお嬢さんの首に牙を立てたのは、紫貴さまのお兄様、灰斗さまです」
『真紅の薔薇』
『灰斗』
その二つの言葉に、ドクンと大きく心臓が跳ねた。
急速に速さを増して動く心臓が、ドクドクドクドク、血を騒がせる。
それと同時に、頭の奥に閉じ込められていた記憶が、殻を割って溢れ出す。
「……は、……っ」
「くるみっ?」
がくん、と膝から崩れ落ちそうになったあたしを、藍川が抱きとめる。
膝をついた藍川が、あたしを抱き締めるようにして見つめて、名前を呼ぶ。
「くるみ……っ、どうした?! くるみ!」
……そうだ。
あの時も、こんな風に、抱き締められて名前を呼ばれた。