恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


中学に入ってからも紫貴のクールぶりは変わらなくて、だけどあたしに対してだけは少し違っていた。

それを見た周りが、『付き合ってる』って噂し始めたのは、一年生の夏休み前。

その頃のあたしは、紫貴への感情になんとなく気付いていたから、そんな噂は嬉しかった。


テニス部に入ったあたしを、紫貴はいつも待っていてくれて、それを見かける度に『いいなー、彼氏』なんて言われるのも嬉しくて仕方なかった。

噂を否定しない紫貴も、誰の告白にも応えない紫貴も、あたしを特別扱いしてくれる紫貴も。

全部が嬉しくて。


……でも。

あたしには、まだ踏み込めていないラインがあったから、嬉しさのどこかにはいつも後ろめたさみたいなモノがあった。



あの日、初めてヴァンパイアの話をした日。

その日以降、その話題に触れる事はなかったから。




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