恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
『兄貴がいるけど……、生まれてから数回しか会った事ないから』
『……そう』
なんで、そんなにつらそうな顔をして答えるのかは分からなかった。
だけど、そこには踏み込んじゃいけない気がして、それ以降、家族の話はしなかった。
あたしが聞けばなんでも答えてくれる紫貴。
それでも、紫貴の中にはあたしが入れないような闇に覆われた部分がある。
それが、両親だとかお兄さんに関係するものなんじゃないかって漠然と思うけど……。
聞けなかった。
いつか、紫貴が話せるようになったら話してくれればいい。
一生話す気になれなかったら、それでいい。
そんな風に思って、その事はそっと胸にしまった。
……だけど。
あたしが、紫貴の闇の内を知る事になるのはそのすぐ後。
思いがけない人との接触で……、紫貴の闇を大きくする事になる。