恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
思いがけない言葉が耳に入ってきて、思わず灰斗さんを見上げる。
と、同時くらいに、目の前の景色が全部グレイになった。
グレイになった理由は、あたしの視力の問題じゃない。
……目の前に、紫貴が立ったから。
灰斗さんからあたしを隠すように立つ紫貴を、少し横にずれて見上げる。
青白い顔色に、鋭く光る瞳。
背筋が寒くなるような表情が映って、声がかけられない。
『なんだ、元気じゃん。元帥から、紫貴が体調が悪いって話を聞いて来たのに』
こんな不機嫌な紫貴を前にしても、ケロっとした明るい声で言う灰斗さんにハラハラする。
紫貴は、じっと静かに灰斗さんを睨むように見ていた。
『何か用ですか?
俺が視界に兄貴を入れたくない事ぐらい、分かってもらえてると思ってたんですけど、思い違いだったみたいですね』
『分かってるよ。紫貴が俺を殺したいくらいに憎んでるって。
でも、たまたまこっちに用事もあったし、そのついでに顔ぐらい見ていこっかなってさ。
……もう10年振りだし』
『用事?』