恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
『紫貴、体調大丈夫?』
コンビニでアイスをふたつ買って外に出たところで聞く。
薄暗かった空は、もうすっかり闇で染まっていた。
白いビニール袋を持った紫貴は、あたしをちらっと見た後、目を伏せて返事をする。
『……ああ。もう治った』
『嘘ばっかり。風邪がそんなにすぐよくなるわけないじゃん』
『風邪じゃない。ただ熱っぽかっただけ』
『あたしが熱っぽくなる時って、風邪引いた時だけだよ』
顔を覗きながら言うと、紫貴が笑う。
その笑顔は、灰斗さんみたいに人懐こいものじゃない。
笑顔っていうよりは、笑みを含むって言い方の方がしっくりくるような、微かな笑み。
だけど、あたしが何よりも好きな顔。
『じゃあ、くるみよりも俺の方がナイーブだって事かな』
『なにそれ。失礼な言い方……』