恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
そこまで話して、紫貴はしばらく黙った。
目を伏せて、床の一点を見つめていた。
小さなライトに心細く照らされながら。
そして数十秒がたった後、また静かに話し出した。
『父さんと母さんは、その後すぐに結婚して、俺を生んだ。
その生活は、誰から見ても幸せそうだったって聞いてる。
……それが、美朱には気に入らなかったらしい』
『なんで? 欲しかったのは、地位なんでしょ? だったら手に入ってるのに……』
『美朱が欲しがってたのは、父さんではなくて地位だけだった。
なのに……、予想してなかった窮屈な生活が待っていて、それに耐えられなかったらしい』
『窮屈? あ、……言葉遣いとか、振る舞いとか?』
王家っていうのが、人間界でいう天皇っていう事なら、確かにそれなりに窮屈な生活が待っていそうだけど……。
それはヴァンパイア界でも同じって事なのかな。
そう思ってたあたしに、紫貴は少しだけ笑う。