恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
重く沈むそれは、まるで鉛みたいに静かに静かに沈んでいく。
耐え切れなくなった感情が、涙になって目の奥まで上がってきたのが分かった。
『……俺が知ってるのは、ここまで。
兄貴と母さんの間にどんなやり取りがあったのかは知らないけど、母さんは死んで……父さんはその後を追った』
一気に涙が溢れ出して、頬を伝う事なく床に落ちた。
紫貴が泣いていないのに、あたしが泣いちゃいけない気がして、俯いてぐっと耐える。
目の奥から胸の辺りまでが熱くて苦しかったけど、でも、奥歯を食いしばって我慢した。
冷たい紫貴の手。
ぎゅっと強く握り締めると、紫貴が握り返してくれた。
『……なんで、今日。あたしを部屋に入れてくれなかったの?』
少しの間、手を握ったままお互い何も話さなかった。
静かな部屋で、そんな事を聞いたあたしに、紫貴は困り顔で笑う。