恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
ただのおどしかもしれない。
そうも思うけど……。
万が一、灰斗さんが紫貴に何かを仕掛けた時。
紫貴はきっと何かしら行動を起こす。
両親の事があるし、きっと冷静じゃいられなくなって、もしかしたら灰斗さんと“喧嘩”なんて言葉じゃ片付けられないような事になるかもしれない。
『……賭けの内容はなんですか?』
あたしだって、バカじゃない。
どんな賭けなのかも知らないまま乗るなんて事しない。
夏の暑さを乗せた日差しが照りつける中、建物に囲まれた細い路地だけがひんやりとしていた。
数メートル先は大通りでたくさんの人で賑わっているのに、あたしと灰斗さんの間には静かな空気が流れていた。
『今日、友達と別れたらまた来るよ』
微笑んだ灰斗さんはそれだけ言って姿を消した。