恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
部屋の中央まで進んだ灰斗さんは、椅子に座る事なくあたしを見ていた。
人懐っこく感じた事もあった灰斗さんの笑みが、今は灯りのせいか気味悪く感じる。
『くるみちゃんさ、こんなところまで来ちゃってどうするの?』
『え?』
聞いた直後には、目の前に灰斗さんがいた。
紫貴はこんな風にあたしをびっくりさせるような事はしないから、あまりの速さに身体がすくむ。
紫貴よりも大きな身体で見下ろされて、恐怖が湧き上がる。
『俺がヴァンパイアだって知ってるんでしょ?
それを知らなかったのしても、俺、男だよ。
どうにかされるとか考えなかったの?』
『……っ』
灰斗さんの指先がなぞるのは、あたしの首筋。
紫貴と同じように冷たい指先に触れられて、身体がびくっと揺れた。
声を出さずに睨むあたしを、灰斗さんが笑う。