恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


『俺はね、紫貴の母親を殺しちゃいない。

美朱……、母さんには殺せって言われたけどね。殺す前に、紫貴の母親は自分で胸を刺して自殺したんだよ。

「この身も、この血も。あの人以外には汚させない」って』


笑っていたハズの灰斗さんの口許が、わずかに歪んだのが分かった。


『自分が殺されるって立場に置かされながら、父さんの事だけを考えてたんだ。あの女。

……なんか、虚しかった。

俺が殺そうとしてんのに、俺なんかあの女の目には映ってなくて。父さんだけ……。

それどころか、……』


そこまで言うと、灰斗さんはぐっと歯を噛み締めて顔を歪めた。

そして、気を取り直すようにあたしを見て、無理矢理作ったような笑顔を浮かべる。


『だから、試してみたくなっちゃってさ。

くるみちゃんも、あの女みたいに紫貴の事だけを考えるのかなって。

……死ぬって立場に追い詰められても』

『……賭けは?』






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