恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
『ナイフはないから……、舌でも噛んで死ぬ?
紫貴の母親みたいに』
口許で形だけの笑みを作る灰斗さんが、指先であたしの顎を上げる。
じっとあたしを見るのは、グレイの瞳。
どこか、紫貴を連想させる色の瞳。
『そうしたいところですけど……、今はしません。
紫貴をまた一人にはしたくない。
両親を失った時から、紫貴はずっとひとりで悲しみながら生きてきたんだから……。
同じ想いを、紫貴にさせたりしない。
だから、今ここでは噛みません』
『……俺に血を吸われてもいいんだ』
薄暗い中で、灰斗さんの口許で何かが光った気がした。
背中がぞくりとしたけど、紫貴への気持ちがあたしを奮い立たせる。
外では雷が鳴り出したみたいで、地響きみたいな音が聞こえてくる。