恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
今、こうして見て改めて気付く。
記憶を失っていた時は、あの一度の吸血行為で紫貴を満たしていた気になっていたけど、でもそれは勘違いだ。
紫貴の顔色だとか、瞳の色で、紫貴が今どれだけ血を欲しているか分かる。
長年見てきたからこそ、一緒にいたからこそ、分かるんだ。
だから言ったのに。
紫貴は微笑んで、あたしを抱き寄せる。
「今は本当に大丈夫なんだ。
足りてないのは確かかもしれない。でも……、気持ちが満たされていて気にならない。
それに、愛情表現だったらこっちの方がいい」
そう言った紫貴が、あたしの顎に指をかけて顔を上げさせる。
唇を塞がれて、ゆっくりと目を閉じた。
ゆっくりと入り込んできた紫貴の舌が、口内を撫でるように動く。
強い気持ちが伝わってくるようなキス。
幸福感が溢れ出して、閉じた瞼の裏にまた涙が浮かんだのが分かった。