恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
【第十六章】
「嘘だと思われても仕方ないけど。
俺は最初から殺すつもりなんかなかったんだ。
母親の美朱の頭が少し狂ってるのはずっと分かってたし、第一、俺そういうの好きじゃないし」
自分のお母さんを、名前で呼ぶ灰斗さん。
その声には愛情どころか、なんの感情すらこもっていない。
むしろ、軽蔑さえしてそうに聞こえた。
「だから、血を少しだけもらって、それを証拠として持って帰ればそれでいいやって思ってた。
けど……、それを話したら、あの女は微笑んで『そんな子供騙し、美朱さんには通じない』って。
『そんな事して騙したら、貴方の身が危ない』って……俺の心配とかしててさ」
灰斗さんは、窓際に立ったまま目を伏せて話す。
入り込んできた月明かりが、床に灰斗さんの影を作っていた。
「笑っちゃうだろ? 初めて会った俺の心配なんかする必要ないのに。
なのに……、俺がいくら言っても、引かなかった。
しまいには、『貴方の父親、誰だか知ってる?』とか聞いてきて」