恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
灰斗さんは、ごまかすように笑う。
それから、目を伏せたまま静かに言った。
「言っただろ、人殺しとかそういうのが好きじゃないだけ。……他に意味なんかない」
「……それで?」
紫貴が、先を促すように話を元に戻すと、灰斗さんは一拍置いてから話を続けた。
「誰にも止められないくらいに美朱が怒ってるのが、あの女にも分かったみたいで……。
あの女は、美朱の手にかかる前に自分で命を絶ったんだ」
「え……?」
「『私が誰かに殺されたって聞けば、あの人はずっとその誰かを憎みながら生きる事になる。誰かを憎み続けるのって、とても悲しい事だから。
私が、バカな女だったんだって……誰も悪くないって、そう伝えて……』、そう残して」
思い出しながらっていうよりも、完全に暗記した言葉を並べているみたいに思えた。
まるで、何度も何度も繰り返してきた言葉みたいに。
「死にそうな涙声で言うもんだから、ずっと忘れられなくてさ。
まいっちゃうよ」