恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「俺の周りには、美朱みたいな女ばっかだったから……、あんなに一人の男を愛し抜く女、初めて見たんだ。
死ぬ瞬間まで自分の気持ちを貫いて真っ直ぐだった」
灰斗さんが話す。
「ナイフで切った傷跡から流れ出る血までもが、親父だけを待っているみたいだった。
死に際までずっと、目が離せないほどに綺麗でさ。
柄にもなく、笑顔がみたいなんて考えが浮かんだ。
……瞼は閉じられていて、もう脈もなかったから叶わなかったけどね」
灰斗さんの瞳が、寂しそうに伏せられる。
口許ではわずかな笑みを浮かべていたけど、それが余計に気持ちを切なくさせた。
「でも、別にそれだけだけど。
俺は美朱とは違って地位や名誉なんかに執着したりしないしね。
これからも適当につまみ食いしながら遊んでいくつもりだし。
ただ……、あの女には悪い事した。
悪いのは、美朱と……、俺を作る事を優先させた元帥達にあるのに」