恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


すれ違い様に見えたのは、藍川の右手甲の傷。

ぐいっと強引に藍川の手を掴んで傷口を見ると、傷から血が滲んでいた。


「さっき、深山くんに手を振り払われた時に……?」

「放っとけば治るから」

「でも、」

「いいから」


ぴしゃりと言われる。

だけど、それに負けじとじっと藍川を見上げた。


「だってあたしのせいだよ。放っとくなんてできない」


目を逸らさずに言うと、藍川は視線を返して……短くため息をつく。


「その責任感の強さとお人よしさが、いつも事件に巻き込まれる原因だな」

「うるさいな。ちょっと待って、絆創膏があ―――……」


言葉が奪われたのは……、

藍川の手の甲にあった傷が、すぅっと消えていくのを目の当たりにしたから。

さっきまでは血が滲んでいた真新しい傷が、今一瞬にして消えて……跡形もない。


「あれ……?」


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