恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
ぼう然としたまま、頭が正気を取り戻そうとしないあたしに、藍川が近寄る。
サァ……、と吹いた風が、あたしと藍川の髪を揺らす。
伸ばされた手に身体を竦ませながらも動けずにいると、藍川の冷たい手があたしの頬に触れる。
「……くるみ。この事は俺とくるみだけの秘密だ。いいな」
まるで呪文だった。
それに逆らう気持ちが、浮かぼうともしない。
「助けてやった見返りくらいよこしても、罰はあたんないだろ」
「……えっと、」
「誰にも言うな」
藍川が微笑む。
その意味ありげな微笑みに、あたしは頷く以外の術を持たなかった。