恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―


「映画でも見たの? 怖がるのは勝手だけど、トイレは一人で行ってよね」


鳴り響いたチャイムを聞いて、祐ちゃんが前を向く。

先生が入ってきて朝のHRが行われている最中、ずっと藍川の事を考えていた。


……ヴァンパイア。

だけど、それだったら血うんぬんの言葉だって説明がつく。

つくけど……。


ちらっと、視線だけで藍川を捕らえると、いつも通り冷静沈着な面持ちで先生の話を聞いていた。

吸い込まれるほどの黒髪。

底光りする、薄い紫色の瞳。


……まさか、ね。

まさか……。


本当にそう思うし、ヴァンパイアなんかいないって思うのに。


なのに、『ヴァンパイア』って言葉が、

忘れていた何かに繋がるピースの一つのような気がして、あたしの胸を騒がせる。



< 72 / 343 >

この作品をシェア

pagetop