恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「映画でも見たの? 怖がるのは勝手だけど、トイレは一人で行ってよね」
鳴り響いたチャイムを聞いて、祐ちゃんが前を向く。
先生が入ってきて朝のHRが行われている最中、ずっと藍川の事を考えていた。
……ヴァンパイア。
だけど、それだったら血うんぬんの言葉だって説明がつく。
つくけど……。
ちらっと、視線だけで藍川を捕らえると、いつも通り冷静沈着な面持ちで先生の話を聞いていた。
吸い込まれるほどの黒髪。
底光りする、薄い紫色の瞳。
……まさか、ね。
まさか……。
本当にそう思うし、ヴァンパイアなんかいないって思うのに。
なのに、『ヴァンパイア』って言葉が、
忘れていた何かに繋がるピースの一つのような気がして、あたしの胸を騒がせる。