恋愛ラビリンス―愛しのヴァンパイア―
「別って……、っていうか、名前呼び捨て……っ」
「そろそろ帰らないと」
「……」
あたしの反応なんか気にもしない藍川に、むっとして黙り込む。
そんなあたしを見て、藍川は「送るから」と微笑んだ。
帰り道、何度か名前を呼ばれたけど、それはすっかり名字に戻っていて。
藍川が『くるみ』って口にする事はなかった。
……だからこそ、あの言葉が特別に思えてしまって。
あたしが特別だなんて、そんな事ありえないのに。
うぬぼれた解釈をする頭を何度も振った。
『くるみは別だ』
なのに、振り落としたい言葉が何度も頭の中でリピートされて、しまいにはそれに集中してしまう始末だから困る。
『くるみ』
藍川にそう呼ばれるのを、心地よく感じるのはなんでだろう。
『くるみ……』
藍川の声が、夢の中のあの人に重なるのは……、
なんでだろう。